小説・熱海残照8=(中尾ちゑこ・作、松山英雄・画、松山幽紫・題字)

伊東版 2018年10月11日

挿絵
挿絵

   二

 東北地方で大地震が発生、それによって引き起こされた津波、火災が未曽有の惨事を引き起こしていたことを、その時は知る由もなかった。千代が知ったのは、午後五時過ぎだった。

 権田に送ってもらい、買い物を冷蔵庫や食品籠に入れ、夕食の支度にかかる前に習慣となっているテレビのスイッチを入れた。画面が暗い。カメラの位置がひっきりなしに動く。アナウンサーの声が叫び声に聞こえる。

 慌てて他の局に切り替えても、どの局も同じような画面。アナウンサーが脇から次々と渡される原稿を読み上げている。震度いくつとか、関東圏の交通がストップしているとかで、首都圏の主要駅の模様が映される。

 その間に震源地とされる東北地方の太平洋岸の市街地の画像が繰り返し流れるが、停電のためか映されているものが黒いシルエットになって浮かび上がるだけ。火災が起きたのだろうか、爆発音が響き、ときおり空が真っ赤になる。そんな惨事が一カ所だけでなく、あちらこちらで発生しているようだ。現場のまともな取材や撮影ができる状況ではないのだろう。断片的な情報が飛び交い、十メートル近い津波が町を飲み込んでいるとも。

 息を〓んで画面を見続ける。被災地に夜の闇が迫っている。チャイムが鳴っていることにすぐには気付かなかった。

 「滝沢さん、滝沢さん」ドア越しに権田の声だ。

 【写説】挿絵

〓(541e)は呑の異体字

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