沖縄の風を運ぶ海辺のアトリエ <染色家・石塚 淳>【下田市】

2018年01月22日

13枚目/13枚中

 その歴史は14~15世紀に始まったと伝えられる、沖縄の気候風土に育まれた唯一の染色・伝統工芸「紅型(びんがた)」。

 琉球王朝の王族のお召し物として作られ、沖縄の太陽に映える鮮やかな色合いは、海外交易によりもたらされた宝石などの鉱物や、貝殻、樹皮、昆虫など自然由来の多彩な素材を顔料に使用しています。
 作品に華やかな奥行きを与える仕上げに施す隈取りも特徴で、季節感に縛られず、鳥や花などの自然物のデザインを自由に組み合わせ、それぞれに意味を持つ文様は“幸せに・平和であるように”と原点は「祈り」。

 その伝統工芸・紅型に惚れ込み、故郷・下田で創作活動をしている染色家・石塚淳さん(40)を訪ねました。

 光が窓いっぱいに射し込み、開放感たっぷりのアトリエは、道具に至るまで石塚さんの手作り。大切に飾られた紅型の帯、作品の数々、鮮やかな顔料が古民家に彩りを添えます。

 石塚さんは、20代のころ藍染めなどの製品を扱うアパレル会社に勤めたあと、沖縄文化に触れる機会があったそう。
 かつて王府の庇護のもと、現在の那覇市首里で発展した紅型。王朝の崩壊後、後ろ盾を失った多くの紅型職人は廃業に追い込まれ、衰退の一途をたどっていきます。
 追い打ちをかけるように第二次世界大戦が勃発し、沖縄中が悲惨な戦禍を受ける中、決して紅型の灯火を消してはならないと先人の身を賭した活動があり、今に繋がります。
 その復興の礎となった沖縄・首里城のふもとにある紅型工房で、縁が重なり7年の修行。そこで培った経験を胸に2010年、故郷下田へ戻ります。

 まずは工房となる物件探し。なかなか思うような場所が見つからず、実家である下田の老舗そば処「いし塚」の手伝いをしていても、染色家を生業にしていくことが、どうしても諦められなかったそう。
 2015年に縁が繋がり、言わずと知れた伊豆を代表するビーチ「白浜海岸」から車で3分程の場所、下田市板戸一色(いちき)の築200年の古民家を紹介してもらうと、直感で「ここだ」と。

 色付けする刷毛や模様を切り抜く台座など、はては内装までも手作りをして自分の“お城”を作りあげ、稲梓・下田セントラルホテル玄関の暖簾(のれん)やタペストリーの注文品、作品の創作活動を精力的にこなします。

 昨年から作品活動と並行して、気軽に染めの楽しさを知ってほしいと始めた「びんがた教室」。2時間1人3000円の「体験コース」で、作品を入れる額も必ず渡すのは、「大切な思い出をしまうのではなく、飾ってほしい」との思いから。
 友人や家族と一緒に作った思い出や達成感。手を動かすことで生まれる気持ち、豊かさを感じてほしいと。
 好きなデザインで制作できる「創作コース」では、暖簾、クッションカバー、バックなどを作り、プレゼント用に、自分用にと自由に制作できるのも魅力。

 体験している人たちの顔が、活き活きとした表情に変わっていき、個性あふれる色の組み合わせをする人などもいて、自身も刺激を受けることがたくさんあるそう。
 点を線にする「突き彫り」という独特の技法を使ったリズム、抑揚と柔らかさ。シンプルな中にも見栄えがいいものにこだわり、デザインの試行錯誤が続きます。

 着物文化、染色家が必要とされる舞台が減ってきている現状。「先人の積み上げた技術の結晶の中には、まだまだ秘めた可能性がたくさんあると思う」と話します。
 クーラーも電気も、水もない中で染めていた先人たちに思いを馳せ「現代は便利で、充分に満たされている。あの時代を見習いたいですね」と、謙虚な気持ちを忘れない。

 アロエの里としても知られる一色地区。目の前には、地域の御祭神を祀る龍宮島。
 伊豆大島や、利島などを望む海辺にそよぐ穏やかな風を「沖縄に似ているね」と友人が言ってくれた。いつか海辺で作品展を開催できたらと、夢も膨らむ。

 シャイだという石塚さんは、作品を通すと溢れる想いが伝えられるそう。「職人として60、70歳でもまだまだの世界。満足せず、作品で恩返しをしていきたい。やりたいことがたくさんあります」。

 沖縄の伝統文化を、遠く伊豆の地で育む姿、アトリエを包むゆるやかな時間は、石塚さんそのもの。
 これから描かれる心模様が、どのように輝きを増していくのか、海辺の作品展も楽しみに待ちたいと思う。(野)


<びんがた教室・予約・問い合わせ>
◆TEL0558-36-3170
◆体験コース/2時間~・額装品1人3000円(作品は持ち帰り)
◆一から作る創作コース/3時間3000円(要相談)
◆要予約(当日の予約不可)
◆所要時間/90分~・作品は持ち帰りできます。
◆染色家・石塚 淳
◆静岡県下田市白浜100-1
◆www.ishizukaatsushi.com
◆伊豆急下田駅より板戸一色行きバス乗車「板戸一色」下車。バス停より徒歩3分。

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