そばが紡ぐ縁 <自家製粉・石臼挽き・手打そば 誇宇耶>【東伊豆町】

2017年08月07日

1枚目/32枚中

 創業1991(平成3)年12月。開店から四半世紀の時がたった東伊豆町稲取にあるそばの銘店「誇宇耶(こうや)」。
 そのおいしさは、地元もさることながら、遠く北海道、東京、神奈川、埼玉などから、この店のそばを求めて、常連が訪れる折り紙付き。

 伊豆では4軒しかやっていないという“玄ソバ”からの製粉をしている。ソバの実は北海道から九州までの契約農家から取り寄せ、真空包装し、冷蔵庫で温度を徹底管理。一年中最良の状態で保管し、色選別機による丸抜きの選別、そば打ち用の水は2、3週間に一度くみに行くという西伊豆町大沢里の天城深層水を使う。毎朝、石臼で挽きたてのそば粉を製粉し、普段は7、8キロ、繁忙期には30キロのそばを打つそう。

 ワサビは友人が育てる東伊豆町白田産、そばつゆに使用する原材料のカツオ節は、鹿児島県枕崎市の本枯れ節にこだわり、自前の畑で採れる旬の野菜、夏はナス、キュウリ、ヤーコン、万願寺トウガラシなどが食材に並ぶ。

 店主の山田慶一さん(58)は、静岡地酒研究会会員というだけあって、日本酒のセレクトも玄人はだし。2008(平成20)年、北海道洞爺湖サミットで乾杯に使われた静岡の代表酒「磯自慢」をはじめ、喜久酔、初亀、杉錦など、地元・静岡の酒を中心に約20種類をそろえる。
 「自分が飲みたい酒を仕入れているだけですよ」と謙遜(けんそん)するが、品書きに寄せる言葉に、日本酒へのこだわり、奥深さを伝えたい気持ちがあふれ出る。

 31年前、当時27歳だった山田さんは、農業をしていたこの地で、そば店を始めようと決意した。麺好きという理由だけではない。実父が家族のためにそうしたように、ソバの実を育て、自家製粉したそば粉を、自分で打ってみたいという気持ちもあったからだ。
 稲取で生まれ育ち、東京や埼玉などで修業するために離れていた5年間。帰省した駅のホームに降り立つと「潮の香り、ミカンの花の香りがして、稲取はこんな香りがするんだ。と感じたのは初めての感覚でしたね」。

 15~20年の付き合いあがるという東京都、山形県、宮城県、栃木県、茨城県、長野県、京都府の仲間でソバの情報交換をしているそう。生産条件が不利とされる中山間地域の農家から買い付けもする。種をまく時期、早取りをお願いするなど、信頼のおける農家との切磋琢磨がある。

 出来上がったソバの実は、製粉会社よりも高く買い取るそう。「個人では微々たる支援だけれど、仲間と一緒に頑張っている農家を応援して、そば本来の味と香りが活きた、おいしいそばを提供したいですね」。
 契約農家との信頼関係がもたらす風味豊かな、誇宇耶のそば。山田さんは、懸命に応えてくれる農家の顔が見たくて、遠く出向いていくのも楽しみの一つといい、「伊豆の温泉に来たから寄ったよ」と、農家のみんなが稲取まで食べに来てくれたエピソードをうれしそうに語ってくれた。

 開店する際、店のイメージは「田舎は田舎らしく。古民家風の建物にしたい」と考えていたそう。食べ歩く中でイメージをふくらませ、中でも長野県戸隠にある古民家が気に入り、移築することも考えたが、実際に建ててしまった。

 高い天井に立派な梁が貫かれ、冬場は火入れもする店内の囲炉裏の大木は、友人の手伝いに行き、お礼にと頂いたもの。椅子は山から切り出し、テーブルは、岩手県大船渡市のそば店の知人が手放すというので、わざわざトラックで受け取りに行った。器にもこだわり、地元で活動する作家の窯元に手伝いに行くほどだ。

 窓の向こうには紺碧の相模湾と、美しい下田白浜が見える。時折訪れる常連の特等席は、窓側4番。空がオレンジ色に染まる夕暮れに“一献”がお決まりだそうだ。

 主に東北、西は兵庫県まで約1000軒を食べ歩いた。温かな人たちにめぐり会い、意気投合して、そのまま泊めてもらうこともある。
 店主としての山田さんも同じ。来店した初対面の客と酒を酌み交わし、遠くから来て車中泊だと聞けば、座敷に泊まらせる情けの深い人。
 「僕は、すぐお客さんや、店主と仲良くなっちゃうの」と、屈託のない笑顔で話す山田さん。人と人とのつながりが一番大切と語ってくれた山田さんのその人柄に、自然と縁が紡がれていく。

 忙しく駆け回る中で、心が休まるときを伺うと、「仕事ではあるけれど、やっぱりそばを打っているとき、畑の土をさわっているときに安らぎを感じますよ」。

 妻の寿代さんは、ご主人のそば店巡りに付き合うそう。「たまには違うものを食べに行きたいですけどね笑。のめり込むとずっと突き詰める人なので」と見せる笑顔は、長年その姿を見てきた誇りにも、喜びにも映る。

 実家が元々、染め物店「紺屋」だったから「こうや」。「(宇)場所もよく、(誇)誇れる、(耶)ところ」。

 かつて「温故知新」だった山田さんの座右の銘は、「一以貫(いちをもってつらぬく)」となり、愛息に引き継ぐ予定の“5年後”へ向かっている。

 ここに一度訪れ、紡いだ縁がふと心に浮かんだら、いつでも待っていてくれる場所。そんな店が稲取にあります。(T)

◆静岡県東伊豆町稲取1940-1
◆電話番号/0557-95-3658
◆営業時間/午前11時~午後8時
◆定休日/木曜日

最新写真特集

おでかけガイドトップへ アクセスガイド・クルマ編へ アクセスガイド・電車編 伊豆の天気予報 東伊豆ガイド 南伊豆ガイド 西伊豆ガイド 北伊豆ガイド 中伊豆ガイド
イズハピ動画