伊豆の低山を歩く ジオてくの楽しみ43=遠笠山・天城高原(伊東市・伊豆市・東伊豆町)

2018年08月27日

1.遠笠山山頂近くから望む雄大な天城連山。左の丸い山が万二郎岳、一段上がった尾根が馬の背、右上がりの尾根が石楠立、右端が伊豆最高峰の万三郎岳。手前は天城高原ゴルフコース
1.遠笠山山頂近くから望む雄大な天城連山。左の丸い山が万二郎岳、一段上がった尾根が馬の背、右上がりの尾根が石楠立、右端が伊豆最高峰の万三郎岳。手前は天城高原ゴルフコース
2.眼下に見える矢筈山(手前)と大室山。遠笠山林道から
2.眼下に見える矢筈山(手前)と大室山。遠笠山林道から
3.人に余り警戒心を抱かない天城高原の野生のニホンジカ。天城東急リゾートのホテル入り口付近の民家庭
3.人に余り警戒心を抱かない天城高原の野生のニホンジカ。天城東急リゾートのホテル入り口付近の民家庭
4.遠笠山道路沿いを白く染めるシロヨメナ。鹿が食べないため各所で見られる(2011年10月撮影)
4.遠笠山道路沿いを白く染めるシロヨメナ。鹿が食べないため各所で見られる(2011年10月撮影)
登山データ表
登山データ表
登山ルート図
登山ルート図

 ■山と人々=野生鹿多い癒やし道 市街地から車で30分余 標高千メートル、天空の別世界

 伊東市と伊豆市にまたがる天城高原は不思議なエリアだ。市街地から車を30分余走らせれば一気に標高千メートルに達し、そこは天空の異空間である。「猛暑の夏季なら下界と気温差が6、7度あり、冬季は温暖な伊豆の中にあって雪景色の別世界が広がる。こんな場所はほかになく、人気の軽井沢高原よりすごしやすい」と天城東急リゾート天城高原サービスセンター支配人の土屋直也さん(48)は強調する。

 天城高原の開発が始まったのは昭和30年代。県道遠笠山富戸線(遠笠山道路)の一部開通後、県や旧中伊豆町、県内の名だたる企業などの第三セクターにより整備され、後に東急グループに引き継がれた。最奥部に人気の天城山登山口、登山者専用の天城高原駐車場がある。一帯はおおむね国立公園で遠笠山は第1種特別地域、ゴルフ場は同2種、別荘地は同3種だ。

 昔の天城登山は今のように恵まれていなかった。「日本百名山」の著者・深田久弥[きゅうや]は1959(昭和34)年に訪れ、遠笠山道路が建設中(翌年完成)で池から入山。矢筈山[やはずやま]の裾を通り天城東急リゾートのホテル付近にあったロッジに1泊し、翌朝、遠笠山に登り「饅頭笠[まんじゅうがさ]の形をした山」と表現した。ゴルフ場(65年開業)はまだなく原生林で、伊豆市と東伊豆町境のなだらかな斜面を万二郎岳―万三郎岳―八丁池に向かった。

 伊豆トレッキングクラブ代表の源久政男さん(79)=伊東市宇佐美=は「最初に天城山に登った57(昭和32)年は県立伊東高卒業後で、後輩の宇佐美中水泳部員を連れて東伊豆町大川から入山、尾根伝いに遠笠山へ。山頂は草原だった。下山し今、車道脇にあるゴルフ場の石柱門を下った最下部辺りが当時の四辻。右手の林内に菅引[すげひき]―大川の遠笠歩道も残り、ここに水場があったためテント泊して八丁池へ行った」。遠笠山にはスキーをするために訪れたこともあり(バス路線開設後)、初スキーで転び顔にけがをした苦い思い出もあるという。

 天城高原一帯は野生のニホンジカが多い。人になれ、県道を通る車にも驚かない。鹿をわざわざ見に来る人もいる。「鹿のかわいらしい姿にいつも癒やされ、遠笠山道路に『癒やしの道』の愛称を付けては…」と提言する人も。「ただ花などの食害もあり、困っている人もいる」と土屋支配人。盛夏にはマルバダケブキの黄色い花、秋にはシロヨメナの無数の花が沿道を飾る。

 源久さんは「天城高原別荘地の清水台に標高千メートルの伊東市最高地点がある」。同市の最高単独峰は矢筈山の816メートルだ。

 ■登山記=雄大な天城連山一望 避暑兼ね林道歩き最適

 県道遠笠山富戸線(天城高原ゴルフコースの石柱門まで)の終点手前に、遠笠山林道の入り口(鉄製門で閉鎖。山頂の電波塔管理のため車が入る。遠笠山は宗教団体・霊友会の所有。登山は可)があり、その反対側の少し広いスペースに車を止め遠笠山に登った。山頂まで約2キロ。

 入り口から550メートル付近のカーブは風の通り道で涼しい風が吹き抜ける。途中からは矢筈山が眼下となり、その先に大室山の丸い山容、海、一碧湖も見渡せる。山頂近くには天城山系が一望できる開けた場所がある。左手の塔がある少し低い山が帚木山[ほうきぎやま](標高1024メートル)。

 ゴルフ場を手前に後ろにそびえるのが天城連山で、左手から丸い山が万二郎岳、その先の右下がりの稜線[りょうせん]が馬の背、右上がりの稜線がアマギシャクナゲで有名な石楠立[はなだて]、右端が伊豆最高峰の万三郎岳。下界から見ると一つの山体だが、馬の背と万二郎岳、石楠立を含む万三郎岳、さらにその奥の伊豆で2番目に高い小岳[こだけ]は別の尾根であることが分かる。この雄大な景色は何時間眺めていても飽きない。

 山頂には県や県内テレビ局の中継アンテナが建つ。来た道を戻り下山、車道を登山者専用駐車場方面に行き、天城縦走路の登山口から今の四辻方面に向かう。ここからは右手の水場や涸沢[かれさわ]分岐点方面へ。四辻からわずかで菅引分岐点。右手に行けば石楠立歩道(一昔前は知られた歩道だったが、現在、山頂方面は閉鎖されルート不明)で、すぐ遠笠林道に出る。天城山登山者が登山道を外れないようロープを張ってあるが通行可能。

 遠笠林道を左に折れ、さらに林道歩きを楽しんでも良いが、右折し引き返しても短時間で天城山の雰囲気が堪能できる初心者、家族向けのコースだ。「縦走路の登山道入り口は四辻までの区間も荒れており、帰りに林道を通ることで登山道のダメージを回避できる」と源久政男さん。

 今回の林道歩きは標高千メートル前後で涼しく、空が開けて(特に猛禽[もうきん]類)探鳥に最適。伊豆野鳥愛好会も一帯で探鳥会を催す。ミソサザイ、ヒガラ、イカル、カケス、トビ、ハチクマ、ハヤブサ、アオバト、カワラヒラ、クロツグミ、コゲラ、エガラ、アオゲラなど多くの野鳥に出合える。同愛好会の渡辺高助さん(65)は「海岸の海鳥に続き、車で簡単に来られ山鳥も観察できる貴重なエリア」と絶賛する。

 ■ジオ解説=伊豆東部火山群の一つ テラスの高原つくる

 天城の山には天城連山、天城山脈、天城火山などいくつかの呼び方がある。「連山」や「山脈」と呼ぶのは、どの方向から見るかにもよるが、単一峰ではなく複数の峰からなる山塊だからである。万三郎岳、万二郎岳、遠笠山の三つのピークが有名で、その他にも小岳や登り尾、箒木山なども天城の一部と呼んでも良いかもしれない。

 これら複数のピークの中で、遠笠山は丸みを帯びた台形の山で、比較的とがったシルエットを持つ他のピークとは趣が異なる。この山の形の違いはその成り立ちの違いによる。遠笠山を除くピークは天城火山の一部。天城火山は20万年ほど前に噴火を終えた複成火山で、浸食され残った場所がいくつものピークをつくっている。

 一方で遠笠山は15万年ほど前から噴火を始めた伊豆東部火山群の火口の一つ。火口の位置をあまり変えずに大きな山体をつくった天城山のような複成火山と異なり、噴火のたびに火口の位置を変える単成火山群だ。遠笠山の近くにある矢筈山や丸野山、大室山や小室山などの仲間である。

 大室山や小室山と同様に、火口の周りにスコリアが降り積もってできたスコリア丘。遠笠山は、浸食の進んだ天城火山に比べて噴火年代が新しいためなだらかなシルエットを描くが、4000年前の噴火でできた大室山や1万5000年前にできた小室山などと比べ浅い谷が刻まれ始めている。

 遠笠山の噴火は約14万年前、伊豆東部火山群の中では最も古い火口の一つなのだ。溶岩も流れ出し、鹿路庭峠付近まで到達している。この溶岩が浸食された天城火山の一部を埋め立てて、平坦な地形の天城高原をつくっている。天城火山の高標高部に伊豆東部火山群の溶岩がまるでテラスのような高原をつくり出したのだ。

(伊豆半島ジオパーク推進協議会専任研究員・鈴木雄介)

 【写説】遠笠山山頂近くから望む雄大な天城連山。左の丸い山が万二郎岳、一段上がった尾根が馬の背、右上がりの尾根が石楠立、右端が伊豆最高峰の万三郎岳。手前は天城高原ゴルフコース

 【写説】眼下に見える矢筈山(手前)と大室山。遠笠山林道から

 【写説】人に余り警戒心を抱かない天城高原の野生のニホンジカ。天城東急リゾートのホテル入り口付近の民家庭

 【写説】遠笠山道路沿いを白く染めるシロヨメナ。鹿が食べないため各所で見られる(2011年10月撮影)

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