熱視線=伊豆産ユーカリに光 近年注目、使い道多岐

2018年07月13日

奥野ダムの脇にあるユーカリ林と苗から育て植林した高橋さん。今は直径60センチ超ある=伊東市鎌田
奥野ダムの脇にあるユーカリ林と苗から育て植林した高橋さん。今は直径60センチ超ある=伊東市鎌田
ユーカリを材料に造った家具(椅子)。「弾力がありしなって折れない」と倉田昭さん(右)=静岡市のくらた(エコウッド景観協同組合)
ユーカリを材料に造った家具(椅子)。「弾力がありしなって折れない」と倉田昭さん(右)=静岡市のくらた(エコウッド景観協同組合)
東大樹芸研から提供された苗を植林し、4年で直径20センチ、樹高10~15メートルに育ったユーカリを見上げる石井社長=南伊豆町毛倉野のいしい林業裏山
東大樹芸研から提供された苗を植林し、4年で直径20センチ、樹高10~15メートルに育ったユーカリを見上げる石井社長=南伊豆町毛倉野のいしい林業裏山
自宅に近い畑で、コアラの餌用のユーカリを育てている勝又さん=伊東市富戸
自宅に近い畑で、コアラの餌用のユーカリを育てている勝又さん=伊東市富戸

 ■全国唯一の製作集団「家具は不向き?」―静岡市のエコウッド

 オーストラリアが原産の常緑高木であるユーカリ。コアラが食べることで知られる木だが、伊豆とはゆかりが深く、伊東市内には戦後植栽されたユーカリ林が数カ所に見られるほか、一部の農家が動物園のコアラの餌用にユーカリを育てている。また南伊豆町にある東京大樹芸研究所はユーカリの成長の速さに注目、新たな人工林にと研究を進める一方、樹芸研の協力で同町内の林業業者が建築材などとしての活用を目指し山に植栽する取り組みを進める。全国で唯一、ユーカリだけを製材品に事業展開する静岡市の民間製作集団にも取材し、「伊豆のユーカリ」の可能性を探った。(文、写真 森野宏尚)

 静岡市葵区にあるエコウッド景観協同組合の中心企業「くらた」(1967年創業、家具製造・販売)の創業者で、初代組合理事長の倉田昭さん(75)は40年ほど前、オーストラリアで100年近くたっても腐らないユーカリ材を使った鉄道橋を見て驚き、心引かれた。以来、ユーカリの研究を進め、家具製造の斜陽化が進んだこともあって94(平成6)年、ユーカリ材1本に絞った製材品事業にかじを切り始めた。

 2年後には異業種と手を組み県知事認可のエコウッド景観協同組合を発足。これまでに富士山世界遺産の構成資産である三保の松原に500メートルの参道「神の道」、神奈川県茅ケ崎市のイベントデッキ、伊豆地区では熱海駅前の足湯や堂ケ島、伊豆市の月ケ瀬梅林、世古峡近くの駐車場、戸田の診療所、伊東や熱海の別荘の外壁、エクステリアなど公共・民間の仕事を手掛けてきた。

 ユーカリは最新の研究で約千種類あるといわれ、オーストラリア・クイーンズランド州の内陸の山から伐採した硬くて粘りがあるスポテットガム、硬くて重いアイアンバークの2種(森林認証を取った合法木材)を輸入。用途により狂わない再生品も輸入して使う。

 伊豆産のユーカリを活用できないか―との問いに娘で現理事長の倉田明紀さん(50)は「種類と太さが重要で、伊豆産は恐らく軟らかくて家具などには向かない。硬いのは太い材の心材で、太さが足りないと樹皮に近い白太(辺材)の部分が多く硬さが確保できない。直径1・2メートル、高さ30~50メートルの木が必要」と指摘した。

 ただ昭さんは「面白い」と興味を示した上で「違う使い道があるはず」とし、ユーカリは今、薬用のアロマオイルなどが注目され、園芸種も人気で引佐(浜松市)では150軒の農家が栽培しているという。

 加えて明紀さんは「線香メーカーが視察に来てユーカリの樹皮に注目していた。切粉をまくと雑草が生えず、ユーカリのある場所には蚊も来ない(刺されない)。ユーカリを薄く切ってつき板や経木のようにしたり、包み紙など紙のように使ったり、問題になっているプラスチックごみに替わり食器にすることも考えられる。植林で二酸化炭素を削減するカーボンオフセットにも貢献できる」とユーカリの幅広い可能性を示唆した。

 将来、伊豆産ユーカリの製品化や産業として成り立つ日が来ることも十分ありそうだ。

 ■東大樹芸研が苗提供、鹿の食害ほぼなし 植林4年、活用模索―南伊豆のいしい林業

 南伊豆町加納の熱帯や亜熱帯の有用植物を研究する東大樹芸研究所。同研究所は1982(昭和57)年に70種のユーカリを町内の研究所演習林に植え、日本の風土に合った十数種に選抜してきた。「日本で育つか」などの試験を終了後、放置される時期もあったが、今は「最も大きな特徴である成長の速さなどから、日本の林業を変えるのはユーカリ」(鴨田重裕所長)との強い思いがあるという。

 鴨田所長(53)が樹芸研に赴任した2005(平成17)年、「ユーカリの成長の速さに衝撃を受けた。この生産性を日本の林業に生かさない手はないと確信を得た」。14年には同町毛倉野のいしい林業に苗を提供、同社裏山にサリグナという品種を213本植栽。高さ20センチほどだった苗は4年を迎えた今、直径約20センチ、樹高10~15メートルに成長した。伊豆半島で深刻な問題となっている鹿などの獣害(食害)に強いことも確認された。

 いしい林業の石井静夫社長(63)は「ナラやクヌギのほかスギ、ヒノキを山に植えても、鹿の食害に遭う。柵(ネット)を設ければ経費もかかり、このまま林業を続けられるか?不安に思っていた。行政は補助金面などで外来種に冷たい」。

 「ユーカリは手がかからないのも魅力で、いつの間にか大きくなる。鹿が下草を食べてくれる。もう少しで伐採できる」と目を見張る。だが、どう利用するか―については「先が見えていない」(石井社長)のが現状だ。「建築材にしたい」とのもくろみもあるが、適するかは分かっていない。一方、同社は再生可能エネルギーの一つである木質バイオマスの発電所も計画し、その燃料にも期待する。

 鴨田所長は「ユーカリは萌芽能力が高く、旧薪炭林のように切るだけで自動的に再生産される森を維持できる可能性が高い。加えて二酸化炭素の固定能力も高い。獣害が顕在化する日本の今の山林において生産性と獣害耐性の高さからユーカリが選らればれるシーンが増えてくるのでは…」「ユーカリの葉には精油分が多く、副産物として活用しない手はない。精油はアロマセラピーに利用されたり、食品に添加されたりし、さまざまな用途が広がる。副産物で収益を上げることは、ユーカリ林業のコストを下げることになり重要」と将来性を示す。

 ■戦後、伊東の数カ所に植える 直径60センチ超の木も―埼玉出身平沼さん

 伊東市内には鎌田の奥野ダム(松川湖)周辺、宇佐美の古道「東浦路」沿い、松原の大平山[おおびらやま]への登山道沿い、富戸の伊豆ホース・カントリー入り口、八幡野の橋立てつり橋近くの5カ所にユーカリ林がある。大きなものは直径50~60センチ、樹高20~30メートルに育っている。いつごろ、誰が植えたのか? はっきりしていなかったが、新情報が寄せられた。

 「伊東に植えた人物や経緯を知っている人が奥野にいる」との知らせで、高橋水見[みずみ]さん(90)を訪ねた。作業の手伝いをした高橋さんによれば、奥野ダム周辺にユーカリを植林したのは埼玉トヨペット社長や会長を務めた平沼康彦さん(故人)。平沼さんは奥野一帯に山林約75ヘクタールを所有し、戦後の昭和20~50年代にかけて成長が速いユーカリを製紙のパルプ材などにする目的で植えたという。

 「自分で育苗もした。苗を作るのは難しく、試行錯誤の結果、種をまき、稲を刈った後の稲シボ(根元から下の部分)を抜き、その中に苗を植え込み、根を張らせて高さ10センチぐらいになったものを山に持って行き、周囲に固形肥料を5~6個埋めて植林した。2種類植えたが、残ったのは1種類」「奥野ダムの周辺の斜面の良い場所10ヘクタールぐらいに植えた。7、8年で成木になるとの話だったが、スギ、ヒノキのように平均的に育てるのが難しく、大きく育つ木もあれば、枯れてしまう木もあった。枯れた後にはスギ、ヒノキを植えた。一番の問題は風で、年によっては寒さも障害になった」。

 植林だけでなく、苗の販売もしてかなりの数量を売ったという。高橋さんは「奥野、松原は平沼さんが植林したが、宇佐美や八幡野方面も、ここの苗を植えた可能性がある。埼玉県がコアラの動物園を造るということで、餌用のユーカリを探しに知事が視察に来たこともあった」。「ユーカリ材でナメコやヒラタケ、炭も作ったが、あまり良いものはできなかった。大きな投資はしたものの、事業としては成り立たなかった」と振り返った。

 ■動物園のコアラ餌用に栽培 伊東・富戸の農家5軒

 伊東市富戸地区には、動物園のコアラの餌用にユーカリを育てている兼業農家が5軒ある。埼玉県こども動物自然公園と契約、栽培している。中心的な存在のかつまた農園の勝又俊宣さん(57)によれば、植木の生産をしていた父親の代に「ユーカリを育ててみないか」との依頼が舞い込み、1985(昭和60)年に栽培を始めたという。

 「コアラの餌用のため消毒は必要ない。手間は草刈りと年2回の施肥ぐらい」との話で、2軒で取り組み始めた。今の栽培面積は合計で約1・2ヘクタール(1人10アール~36アール)。

 コアラが食べるユーカリは約30種に限定され、葉に刺激性の強い成分が含まれるため分解する特別な菌を持つコアラだけが食べられる。畑に副食(おかず)用の8種をメーンに主食用2種の計10種を栽培。動物園で主食に副食を交ぜ与える。

 高さ4~5メートルの木から特に好む新芽のある枝を切り、5軒まとめて動物園へ宅配便で送る。出荷時期は6~8月と12・1月で、他の月も若干生産する。同動物園では自然災害などに備え、鹿児島や東京都八丈島、千葉県など全国6カ所の地区と契約栽培する。

 勝又さんは「手がかからない割には単価が良い。枝を切ってもひこばえが出てきて、1年以内でまた出荷できる。数十年、木を植え替える必要もない。ただ、これだけでは食べていけない。以前は私たち以外にも別の動物園に出荷している人もいた」と話した。

 【写説】奥野ダムの脇にあるユーカリ林と苗から育て植林した高橋さん。今は直径60センチ超ある=伊東市鎌田

 【写説】ユーカリを材料に造った家具(椅子)。「弾力がありしなって折れない」と倉田昭さん(右)=静岡市のくらた(エコウッド景観協同組合)

 【写説】東大樹芸研から提供された苗を植林し、4年で直径20センチ、樹高10~15メートルに育ったユーカリを見上げる石井社長=南伊豆町毛倉野のいしい林業裏山

 【写説】自宅に近い畑で、コアラの餌用のユーカリを育てている勝又さん=伊東市富戸

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