熱視線=ヤマセミ、今は幻 かつて多く生息

2018年04月07日

狩野川の水面を飛ぶヤマセミ=伊豆市小立野、2017年11月、酒井洋平さん撮影
狩野川の水面を飛ぶヤマセミ=伊豆市小立野、2017年11月、酒井洋平さん撮影
1983年、伊東市八幡野で足などにけがし小学生3人に保護されたヤマセミ。その後、元気に回復、自然に戻った=浜野秀保さん撮影
1983年、伊東市八幡野で足などにけがし小学生3人に保護されたヤマセミ。その後、元気に回復、自然に戻った=浜野秀保さん撮影
周囲に人家が多くある旭小近くの松川で木に止まるヤマセミ=1993年1月、伊東市岡、渡辺高助さん撮影
周囲に人家が多くある旭小近くの松川で木に止まるヤマセミ=1993年1月、伊東市岡、渡辺高助さん撮影
木の枝に止まるつがいのヤマセミ=2006年7月、南伊豆町上小野口の青野川支流、小山進さん撮影
木の枝に止まるつがいのヤマセミ=2006年7月、南伊豆町上小野口の青野川支流、小山進さん撮影
木の枝に止まって一休みするヤマセミ=2006年2月、伊豆市湯ケ島、渡辺潤一さん撮影
木の枝に止まって一休みするヤマセミ=2006年2月、伊豆市湯ケ島、渡辺潤一さん撮影
かつてヤマセミが巣穴を作った松川湖の崖。「以前はもっと急斜面だった」と指す酒井さん。遊歩道ができ放棄した
かつてヤマセミが巣穴を作った松川湖の崖。「以前はもっと急斜面だった」と指す酒井さん。遊歩道ができ放棄した
枝に止まり獲物を狙うヤマセミ=2010年4月、伊東市池、植本義一さん撮影
枝に止まり獲物を狙うヤマセミ=2010年4月、伊東市池、植本義一さん撮影
伊豆の国市韮山を流れる古川(ふるかわ)の護岸に止まるヤマセミ=1998年1月、槇和彦さん撮影
伊豆の国市韮山を流れる古川(ふるかわ)の護岸に止まるヤマセミ=1998年1月、槇和彦さん撮影

 ■最高ランク憧れの鳥 市街地にもいた伊豆

 漢字で「山(鹿子[やま])翡翠[ひすい]」と書き、渓流の貴公子や魔術師とも呼ばれ、野鳥ファンの間では最もランクの高い憧れの鳥といわれるヤマセミ。年間を通し同じ場所に生息する留鳥で、伊豆で多く見られるカワセミの仲間だが2倍以上の大きさがある。30年ほど前までは伊豆各所にいたものの20年ほど前から徐々に姿を消し始め、その後激減した。2010年以降は4件の確認例しかなかったが、昨年11月に6年ぶりに伊豆市の狩野川で観察された。だがそれもつかの間、10日ほどで姿を消し伊豆で幻の鳥になった。(文 森野宏尚)

 伊豆半島でのヤマセミの観察記録は、伊豆野鳥愛好会(酒井洋平会長)が発足した1981年から取り始め、80年代は熱海、三島両市と旧戸田村を除く全市町村の多くの場所で観察された。清水町の柿田川、函南町の日の出橋、伊豆の国市の松原橋、千歳橋、大門橋、大仁橋の付近、伊豆市の修善寺温泉上流(桂川)、年川や古川[こがわ]、伊東市の一碧湖、松川(伊東大川)の旭橋(旭小の下)―泉橋(競輪場の上流)、下田市の稲生沢川、南伊豆町の青野川、松崎町の那賀川など。

 「山奥ではなく、周囲に人家が多くあって、こんなところにも…」と驚くような場所が含まれ、酒井会長(75)=伊東市=は「市街地でも見られたのは、伊豆特有のことかもしれない」と注目する。それが1990年代の中ごろから徐々に減り始め、2000年以降は極端に減り、狩野川上流や伊東市の松川湖(07年には4回確認され、うち12月はつがい。これが伊豆半島で最後に観察されたつがい)、南伊豆町の青野川などで限定的に見られるだけとなり、2008年はついに1年間観察ゼロを記録した。

 以降、09年には伊豆市の柿木川で1件のみ、10年は1月に同市桐山、3月に同市の柿木川、4月に伊東市池、11年12月に伊豆市本柿木の柿木川と狩野川の合流点で観察したのを最後に観察記録がなく、12~16年はゼロが続いた。「もう伊豆では絶滅か?」(酒井会長)と諦め掛けていた矢先の17年11月、伊豆市の狩野川で6年ぶりに確認された。

 伊豆野鳥愛好会会員の初田恵さん(67)=伊豆の国市=が伊豆市役所裏―大見川合流点の辺りで見つけた。当時の様子を初田さんは「風が強い日で、影響が少ない市役所裏手の狩野川に妻と野鳥観察に行くと、白っぽい鳥が下流から上流に飛んでいった。アジサシ?とも思ったが写真に収めた。車に戻り確認すると、特徴ある冠羽からヤマセミだと分かった。うれしくてワインを買って帰り、妻と祝杯を上げた」という。

 酒井さんは「狩野川でカワセミの写真撮影をしていた人が2羽見たとの情報もあったため、伊豆でのつがい確認は松川湖以来10年ぶりで営巣の可能性に期待を膨らませた。ところが結局1羽(雌)で、10日ほどで姿を消した。巣立ったヤマセミは親の縄張りを離れる。新たな生息地を探す“旅”の途中だったか」と分析。初田さんは「次に来るときは夫婦で訪れ、伊豆に居着いてほしい」と期待を込めた。

 伊豆野鳥愛好会の会報(毎月発行)名も「やませみ」で、36年余で442号(今年3月)になった。

 ■川辺の環境悪化要因 カワウの増加も一因か

 平野部が少なく山間部がほとんどを占める伊豆半島は、河川の多くが中上流域や渓流でヤマセミの生息環境に適す。それが、少しずつ減少し始めて20年ほど、激減し始めて10年ほどになる。

 伊豆野鳥愛好会会員で下田市高馬に住む渡辺潤一さん(55)=県立高校事務長=は「以前は自宅前の稲生沢川で普通に見られ、流域で5、6つがい繁殖していた。ヤマセミの写真を撮るために伊豆に移住して来る人もいたほど」と話し、それがなぜ姿を消してしまったのか? 酒井洋平さんは、その原因を推測する。

 「河川の護岸改修と川辺の林の伐採(ヤマセミは木の枝に止まって淵などで獲物を探し、見つけると魚めがけて水中に飛び込んで捕獲する。ハンティングには止まる枝が必要)など水辺の環境が変わり、林道の崩落防止工事などで崖がコンクリート化されたり、落石防止の金網が掛けられたりして巣を作る自然の崖が少なくなった。このほか崖の周囲の木が繁茂したり、根が張ったりして巣が作りづらくなったか」

 加えて「1990年代からカワウが入り込んで来て餌となる魚の競合(奪い合い)が起き、アユを守るためのカワウ対策で川にテグスが張られ、銃による駆除、花火や爆音による威嚇で、非常に神経質なヤマセミが伊豆の川に寄りつかなくなった」と分析し、さらにこんな指摘もする。

 「放流しているアユやアマゴなどを育てる餌にはホルモン剤や抗生物質、着色料、保存料などが含まれると言われ、このような魚を餌にすることでヤマセミが繁殖能力の低下を招いている可能性もある。カワウも同じような餌を食べるものの体が大きい分、影響が少ないのではないか」

 ■人工巣穴の設置提案 本気で復活願うなら釣り人制限も必要?

 ヤマセミは赤土の崖に直径10センチほど、奥行き1メートル前後の巣穴をくちばしなどで掘る。その中に卵(4~7個)を産んで子育てをする。産卵期は5月下旬~6月下旬ごろ。

 「なぜ赤土かと言えば、柔らかくて掘りやすいため。カワセミも同じような巣(直径7センチ、奥行き60センチ)を作り、子育てをする」と酒井洋平さん。ただこのような自然の崖が少なくなっている。

 酒井さんによれば1980年代から90年代にかけては、伊豆市八幡の冷川近くの現在葬儀場になっている横の崖(パールタウンに登る崖下)や修善寺自然公園の駐車場(調整池の隣接地)横の崖、伊東市の松川湖にある資料館近くの崖の水面から1メートルぐらいの場所にも巣穴があったが、崖の樹木が繁茂し、巣穴近くに遊歩道ができるなどしたため放棄してしまったという。

 近年、土の崖にコンクリートを吹き付けて崩落防止を図るケースが多く見られるが、酒井さんはこんな提案をする。「体の小さなカワセミは、石垣のパイプなど排水溝を巣穴代わりに活用して子育てするケースが確認されている。フクロウなどほかの鳥も、人工の巣箱を設置してやると利用する。ヤマセミはより警戒心の強い鳥のため、特に河川上流部の生息環境を保全することが第一ではあるが、人工的に巣穴を設けるなどの試みをすることも意義があるのではないか。ぜひ国土交通省や県土木事務所には一考していただきたい」

 その上で「過去に営巣が見られた松川湖など何カ所かで、そのような実験ができれば注目を集める。いろいろ試行してみることも大切だろう」と希望を託す。一方で渡辺潤一さんは「かつて西日本でテストしたが難しかったと聞いている。本気で呼び戻したいなら赤土の崖を残すことはもちろん、渓流釣りなど釣り人の川への侵入を制限することも必要だ」と力を込めた。

 【ヤマセミ】

 ブッポウソウ目カワセミ科に分類。全長約38センチ。日本に生息するカワセミ類で最大。ハトほどの大きさ。山地内の渓流、湖沼に多い。通常、市街地には少ない。

 体の上面は白と黒のまだら模様で、下面は白い。頭の羽は長く冠羽状。雌雄ほぼ同色だが、雄の胸にはだいだい色の斑があり雌にはない。雄の翼下面は白色で雌はだいだい色。主に魚類(イワナ、ヤマメ、アマゴ、アユ、ウグイ、アブラハヤなど)を高い枝から飛び込んで捕食する。「キャラッ、キャラッ」または「ケレ、ケレ」と森に響く鋭い声で鳴く。

  国内では本州、四国、九州のほか、北海道には亜種のエゾヤマセミが分布。国外ではヒマラヤ、ミャンマー、ラオス、ベトナム北部、中国の雲南省などに分布する。伊豆ではここ10年、つがいの観察(営巣)例がない。レッドデータブックの静岡県カテゴリーでは絶滅危惧種1類Bに分類されている。

 【写説】狩野川の水面を飛ぶヤマセミ=伊豆市小立野、2017年11月、酒井洋平さん撮影

 【写説】1983年、伊東市八幡野で足などにけがし小学生3人に保護されたヤマセミ。その後、元気に回復、自然に戻った=浜野秀保さん撮影

 【写説】周囲に人家が多くある旭小近くの松川で木に止まるヤマセミ=1993年1月、伊東市岡、渡辺高助さん撮影

 【写説】木の枝に止まるつがいのヤマセミ=2006年7月、南伊豆町上小野口の青野川支流、小山進さん撮影

 【写説】木の枝に止まって一休みするヤマセミ=2006年2月、伊豆市湯ケ島、渡辺潤一さん撮影

 【写説】かつてヤマセミが巣穴を作った松川湖の崖。「以前はもっと急斜面だった」と指す酒井さん。遊歩道ができ放棄した

 【写説】枝に止まり獲物を狙うヤマセミ=2010年4月、伊東市池、植本義一さん撮影

 【写説】伊豆の国市韮山を流れる古川(ふるかわ)の護岸に止まるヤマセミ=1998年1月、槇和彦さん撮影

 【図表】2007~2018.3月 伊豆半島での観察記録

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