伊豆の低山を歩く ジオてくの楽しみ35=鉢ノ山・三段滝(河津町)

2017年11月21日

1.今はなかなか行くことができない中の滝。高さ10メートルほどで、裏側を通ることができる裏見の滝だ。一般にはほとんど知られない
1.今はなかなか行くことができない中の滝。高さ10メートルほどで、裏側を通ることができる裏見の滝だ。一般にはほとんど知られない
2.江戸時代、オオカミに家畜を襲われ、8本手があれば防げた−との願いから建立された?八手観音
2.江戸時代、オオカミに家畜を襲われ、8本手があれば防げた−との願いから建立された?八手観音
3.鉢ノ山の「桜の小道」を上る。三筋山の風車と天城山系が見渡せる。ワラビの宝庫でもある。勾配30度の安息角が美しい
3.鉢ノ山の「桜の小道」を上る。三筋山の風車と天城山系が見渡せる。ワラビの宝庫でもある。勾配30度の安息角が美しい
4.一枚岩を3段に流れ下る三段滝。コバルトブルーの水が美しい
4.一枚岩を3段に流れ下る三段滝。コバルトブルーの水が美しい
登山ルート図
登山ルート図
登山データ表
登山データ表

 ■山と人々=最も古い天城越えルート 知られざる三つの滝

 江戸時代の初めか、それ以前の最も古い天城越えの道が通っていた河津町川津筏場の上佐ケ野集落。地元でも余り知られていないが、同町梨本の元民宿経営・稲葉修三郎さん(91)は「古くは河津浜―川津筏場―上佐ケ野―鉢ノ山―大山―新山峠―寒天―古峠―大川端のルートで天城を越えた」という。

 集落の中ほどに「保利の稲荷さん」がある。個人所有で、保利は屋号。昭和40年代までは他地域からもお参りに来るほど信仰を集めたと元町議の相馬敬次さん(89)。「子どもの体が弱かったり、病気しがちだったりした時は大変助かった」

 老人施設「おもと苑」上流に、一般に知られていない滝が三つある。下流側から大きな石が中央に挟まる高さ6メートルほどの大倉の滝、落差約10メートルで滝の裏側を通ることができる中の滝は周囲が大きな岩だらけで迫力満点、一番上は高さ2メートルほどだが美しい上の滝。元森林組合職員の山田重吉さん(74)は「昔は旧道が近くを通っていたが、今は行けない。子どものころヤンベ(ヤマメ)掛けで下流から行った」

 また農業の長田計一さん(68)は「佐ケ野川遊歩道を延長してほしいとの要望が以前、地区内にあった。せっかくの素晴らしい自然景観を生かしておらず、もったいない限りだ」と力を込めた。

 鉢ノ山の麓では、かつて草競馬をやった。元県職員の相馬久雄さん(88)は「農閑期に農耕馬を使った。多くの人が集まり、金が無くなれば山や畑、田んぼも賭けたといわれ、昭和初めから大正時代以前の話だろうか」。今、ここに大規模な太陽光発電施設が整備され、様変わりした。

 昭和30年代前後から三段滝の上方の国有林を含む高所ではキヌサヤ(エンドウ豆)が栽培された。「秋収穫の種類は高温を嫌ったため、炭焼きで雑木を切った跡などに種まきした。連作できず次々に場所を変えた」と農業・稲葉アイ子さん(85)。「春に収穫する種類は霜を嫌い、下田の白浜に畑を借りて栽培した。昔の上佐ケ野の特産で、今も一部が栽培する」と続けた。

 若い時は狩猟もした夫の三郎さん(87)は「三段滝の上で、国有林の下方の平らな場所を『追出(おんだし)』と呼び、国有林から獣を追い出し、ここで鉄砲を構えたことから名が付いた。この奥が観音山の岩場で、近くの急斜面を『鹿落としの岩場』と呼ぶ」。古老が亡くなり知る人はもういない。

 追出の下の林道沿いには八手観音がある。山田さんは「亡くなった祖母に聞いた話では昔、放牧していた家畜をオオカミに襲われた人が、8本手があれば防げたとの願いを込めて安置した」という。碑に安永8(1789)年とあった。

 ■登山記=見事な渓流沿い上る 水豊か見どころ多い集落

 県道下佐ケ野谷津線の佐ケ野橋付近に町が整備した佐ケ野川遊歩道駐車場に車を止め歩き始めた。右手に進み橋を渡ってすぐ右折すると、佐ケ野川沿いに設けられた遊歩道だ。

 鉢ノ山の噴火によって噴出した溶岩流が、実に見事な渓流をつくり出した。下流側に行くと三養院の滝。滝つぼが大きく、周囲の柱状節理が美しい。滝つぼに主のオオウナギがすんでいた昔話が伝わり、実際に捕獲もされた。遊歩道を進むと巨岩のほか、いろいろなシダ植物なども群生していて自然美に圧倒される。だが生活ごみが目につき残念だ。

 高橋付近で一般道に出る。左側に進むと上佐ケ野集落で、途中には「とっこさん」と呼ばれる高さ2・4メートルもある石塔や、その少し上には町が設置した小水力発電と安産を願う子安地蔵が迎えてくれる。とっこさんは河津町内8カ所に立ち、上佐ケ野のものが最大。徳本という行者を祭ったもので、南無阿弥陀仏と彫られている。

 集落内を上がると複数の農家が共同運営する河津ブルーベリーの里があり「ここは昔、営林署の苗場だった」と相馬敬次さん。あとひと踏ん張りで鉢ノ山の麓にある第一駐車場とトイレに到着する。一帯は「伊豆元気わくわくの森公園」で、丸みを帯びた斜面に植えられた河津桜の「桜の小道」を上がると三筋山の風力発電の風車がよく見える。

 ここはワラビの宝庫で、春先のほか秋にも小さなものが採れる。山菜好きにはたまらない山のご褒美だ。車道に出たら少し下り、再び「森の小道」を上がる。合流した少し広い道が、県内で初めて認定を受けた健康に良いとされるセラピーロード。一帯にはヤブニッケイやサンショウが自生し、サンゴジュが多く植栽されている。

 山頂広場からは天城山系が一望でき、眼前に観音山も見える。山頂は1周でき、江戸時代に安置された20基ほどの石仏群や山桜の古木もある。クロモジが多く自生していた。鉢ノ山を下ったら上流を目指すと、文字通り一枚岩を3段に流れ落ちる三段滝だ。コバルトブルーの水が美しい。

 途中にはオートキャンプ場が数カ所あり、最上流のキャンプ場の川対岸には昔、銅鉱山があったと山田重吉さん。「中学生のころゲンノウで砕くアルバイトをした。鉱石は重かった。大正の終わりごろから昭和30年代まで、採掘していた」

 帰路は来た道を戻ったが、親水公園や三島神社、延命寺などに寄り道するのも良し。高橋―三養院側を下っても戻れる。上佐ケ野は水が豊かで、見どころの多い魅力あふれる地域だ。

 ■ジオ解説=谷川が溶岩流削る 美しい30度の安息角―鉢ノ山

 鉢ノ山は約3万6千年前の噴火でできた伊豆東部火山群の火口の一つだ。同火山群の中でも大きく、伊東市の大室山と同程度である。

 鉢ノ山の噴火では、佐ケ野川と奥原川に沿って溶岩が流れ下り、河津川に到達している。上佐ケ野の集落がある谷が幅広なのは、この溶岩が谷を埋め立てているからだ。現在の佐ケ野川はこの溶岩を削り込んで流れている。

 佐ケ野川遊歩道は、溶岩を川の流れが磨き上げた渓谷が美しい。遊歩道入り口付近にある三養院の滝で見られる見事な柱状節理は、この渓谷が溶岩流を削り込んでできたことを示す証し、ぜひ見学したい。三段滝もやはり溶岩にかかる滝。三段滝の溶岩は鉢ノ山より少し新しく、約2万7千前の別の噴火で流れ出した。

 鉢ノ山はスコリアが火口の周りに降り積もってできるスコリア丘。噴火中に積み上がるスコリアは少しずつ山を高くするが、急勾配になりすぎると崩れてしまう。スコリアが降り積もったり崩れたりを繰り返しながら大きくなり、スコリアの安息角である30度ほどの斜面に落ち着く。

 鉢ノ山の勾配もやはり30度ほど。空から降ってきたスコリアが斜面を転がり落ちながら山が大きくなっていった様子を想像しながら登ろう。

 時間があったら山頂北側にある第2駐車場から梨元方面へ下る林道の入り口付近まで足を延ばしてほしい。林道の切り通しには、鉢ノ山のスコリアが降り積もった地層が見られる。火口から吹き出したマグマが急冷してできた黒色のスコリアと、火口のそばで焼かれた赤色のスコリアが見事な縞[しま]模様をつくり出している。

(伊豆半島ジオパーク推進協議会専任研究員・鈴木雄介)

 【写説】今はなかなか行くことができない中の滝。高さ10メートルほどで、裏側を通ることができる裏見の滝だ。一般にはほとんど知られない

 【写説】江戸時代、オオカミに家畜を襲われ、8本手があれば防げた−との願いから建立された?八手観音

 【写説】鉢ノ山の「桜の小道」を上る。三筋山の風車と天城山系が見渡せる。ワラビの宝庫でもある。勾配30度の安息角が美しい

 【写説】一枚岩を3段に流れ下る三段滝。コバルトブルーの水が美しい

 【図表】登山ルート図

 【図表】登山データ表

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