熱視線=イワタバコ群落と滝 人寄せ付けない渓谷―伊豆市猫越

2017年08月10日

滝の上流にあるイワタバコの群落の一つ。こんな群落が何カ所もある。沢には大きな転石がごろごろ
滝の上流にあるイワタバコの群落の一つ。こんな群落が何カ所もある。沢には大きな転石がごろごろ
日陰の湿った岩場に自生するイワタバコ。星形の紫色の花が美しい
日陰の湿った岩場に自生するイワタバコ。星形の紫色の花が美しい
河床にできたポットホールを調べる小沢さん。後ろは支流から流れ下る小さな滝
河床にできたポットホールを調べる小沢さん。後ろは支流から流れ下る小さな滝
V字渓谷の入り口付近にある溶岩がむき出しになった河床。ジオ的にも見どころが多く、上流にかつて噴火口があったか?
V字渓谷の入り口付近にある溶岩がむき出しになった河床。ジオ的にも見どころが多く、上流にかつて噴火口があったか?
猫越渓谷の途中にある、ほとんど知られていない高さ20メートルほどの名もなき滝。水量はご覧のように結構ある
猫越渓谷の途中にある、ほとんど知られていない高さ20メートルほどの名もなき滝。水量はご覧のように結構ある
渓谷にあったまん丸の岩。火山の副産物? イワタバコやユリなどいろいろな植物が着生していた
渓谷にあったまん丸の岩。火山の副産物? イワタバコやユリなどいろいろな植物が着生していた

 ■地元の小沢さん案内で訪ねる 随所にジオの痕跡

 連日の猛暑のなか涼を求め、湿った岩場でかわいらしい花を付ける山野草のイワタバコに会いに西天城山系にある伊豆の秘境の一つ、伊豆市猫越[ねっこ]の渓谷を訪ねた。定年後、金山をはじめとした鉱山調査に没頭する湯ケ島地区地域づくり協議会の小沢和彦さん(70)=同市金山[かねやま]=が見つけたお気に入りの場所だ。火山の痕跡があり地質(ジオ)的にも興味を引かれるが、危険だったり、盗掘も心配されたりするため具体的な場所は示さず、紙面上で伊豆の秘境と涼味を堪能してほしい。(文、写真 森野宏尚)

 猫越川支流の沢で、途中から80度から90度近い切り立ったV字型の岩壁が両側から迫る。樹木で覆われ、なかなか見通せないが、崖は高い所で100メートル近くあるかもしれない。こんな場所が300~400メートル続く。標高は540~600メートルと、それほど高くない。

 隣接集落出身の小沢さんは鉱山調査で同所の存在を知ったが、V字渓谷を迂回[うかい]するようにかつては山仕事用の細い道があったため、地元の人でも渓谷奥までは足を踏み入れることがなかったようだ。

 今夏は各地で渇水が騒がれているが、渓谷には清流が涼しげな水音を立て流れ下っていた。岩場には淵もあり、息を潜めて待つと魚影が何匹か確認できた。小沢さんは「アマゴだ」。だが昨今はイワナも各所に放たれ、体型からイワナの可能性もある。「子どもの頃、渓谷入り口の沢で大きなウナギを置き針で捕った」という。

 いよいよV字渓谷だ。足を踏み外せば、ただ事では済まされない危険な岩場が人の進入を拒んできたが、小沢さんが張ってくれたロープを頼りに慎重に歩を進めると、未知の名もなき神秘的な滝やイワタバコの群落が迎えてくれた。この険しい地形が貴重な自然を守ってきたのだろう。

 滝は高さ約20メートル、細かい水しぶきが降り注ぎ、マイナスイオンに満ち、ひんやりして実にさわやか。滝壺[つぼ]は浸食され、丸みを帯びた穴だった。周囲の渓谷美のなか、人っ子一人いない秘境の滝を独り占めし至福の時間が過ぎた。小沢さんが指さす方に視線をやると、かわいらしい紫と白色の花が岩場に咲いていた。イワタバコだ。

 これまで天城山では伊豆山稜線歩道のツゲ峠―猫越峠のトラス橋付近などでしか見たことがなかったが、1カ所の群生数や群落がいくつもあるなど規模は段違いだ。美しい花の時期に訪ねられ最高だった。「自分は、これだけの群生地をほかに知らない」と小沢さん。ものの本によればイワタバコの花の寿命は3~4日と短い。

 このほか岩場を好む伊豆では大変珍しい黄色の花を付けるヒカゲツツジ、アマギシャクナゲ(天城山系で最も低い自生地の一つ)なども見られた。「シャクナゲは東京の市場に出すために盗掘され、大幅に数を減らしたと聞いた」と小沢さんは話した。

 ■大きな転石ごろごろ 上流にかつて噴火口?

 ここの渓谷を訪ねた目的はイワタバコのほか、小沢さんから事前に「ジオスポット、ジオサイトとしてもすごい所」と聞いていたため、そちらも楽しみだった。目的地に向かう途中のV字渓谷が、その片鱗を見せていた。

 伊豆半島ジオパークの生みの親である静岡大教授の小山真人さんの著作「伊豆の大地の物語」(静岡新聞社刊)にも、西天城方面についてはそれほど詳しく記されていない。ここも西天城に連なる山系の一つに当たり、どのような火山の一つなのか、その成り立ちなど詳しいことは何一つ分からない。

 一般的に東海岸も西海岸も天城山系の各火山は、海側が長い年月を経て浸食され急峻[きゅうしゅん]だが、内陸側は火山そのもののなだらかな山容を残している―といった大まかな知識しかない。だが、ここは内陸にもかかわらず垂直に近いV字渓谷で、全く異なる。沢には溶岩が流れ下った痕跡や柱状節理のような形状、石が川底を削ったポットホールもあった。

 山中には人工的に石を積んだ跡があり、地元に「鉱山跡(古老の話でミョウバンを採掘したとの話もあるが、真偽は不明)」と伝わる場所も確認できた。

 そして何より、直径4、5メートルぐらいの巨石や、平均2メートルぐらいの角の取れた転石がごろごろしているのが目を引いた。沢を登っていくと林道を越え、水も切れた高い場所(標高800メートル付近)で顕著だった。鉱山探査をしている小沢さんはジオにも興味を抱き、「V字渓谷や大きな転石など、いろいろな痕跡から沢の上流に溶岩の供給源となる噴火口がかつてあったのではないか」と推測した。

 ■メモ

 【イワタバコ】 

 日本の本州以南および台湾に分布する。日当たりの悪い湿った岩場や崖に生える多年草。高さ10センチほどの花茎を出し、7月末から8月に直径1~1・5センチほどの星形、紫色の花を多数咲かせ、大変美しい。

 葉は長さ10~50センチを数枚垂らす。山菜としても利用するという。岩場に生え、葉がタバコの葉に似ているため「岩煙草」の名が付いた。

 【写説】滝の上流にあるイワタバコの群落の一つ。こんな群落が何カ所もある。沢には大きな転石がごろごろ

 【写説】日陰の湿った岩場に自生するイワタバコ。星形の紫色の花が美しい

 【写説】河床にできたポットホールを調べる小沢さん。後ろは支流から流れ下る小さな滝

 【写説】V字渓谷の入り口付近にある溶岩がむき出しになった河床。ジオ的にも見どころが多く、上流にかつて噴火口があったか?

 【写説】猫越渓谷の途中にある、ほとんど知られていない高さ20メートルほどの名もなき滝。水量はご覧のように結構ある

 【写説】渓谷にあったまん丸の岩。火山の副産物? イワタバコやユリなどいろいろな植物が着生していた

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