熱視線=森林づくり県民税・森の力再生事業 10年を検証

2017年05月01日

森林づくり県民税を財源にした森の力再生事業で整備された森。作業道を入れ、40%ほど間伐を実施した=西伊豆町内
森林づくり県民税を財源にした森の力再生事業で整備された森。作業道を入れ、40%ほど間伐を実施した=西伊豆町内
スギが密生する未整備の森。下草もほとんど生えない。間伐することで日光が入り、下草や針広混交林の育成を目指す=西伊豆町内
スギが密生する未整備の森。下草もほとんど生えない。間伐することで日光が入り、下草や針広混交林の育成を目指す=西伊豆町内

 ■人工林は再生進むが…

 荒廃した森林を再生させるために静岡県が県民1人当たり年間400円(個人県民税均等割に上乗せ)、県内事業所などから同千円~4万円(法人県民税均等割の税率に5%上乗せ)を徴収する森林[もり]づくり県民税。これを財源に県は「森の力再生事業」を展開し、管理が行き届かず、日光が遮られた森が徐々に回復しつつある。県民が納めた税金がどのように使われ、森林がどう変わってきたか、問題点や課題は…。スタートから10年間の森林づくり県民税、森の力再生事業を検証するととともに、伊豆の林業(森林)を展望した。

(文、写真 森野宏尚)

 ■広葉樹林の整備増を 獣害の温床解消へ効果

 伊豆地区の過去10年の「森の力再生事業」の実績は伊豆市、南伊豆町、下田市が目立つなか、賀茂地区が事業エリアの伊豆森林組合の笹本藤也総務課長(42)は「多い年は80~120ヘクタールを森の力で行ったが、今は15ヘクタール弱に減り、事業全体に占める割合も以前の30~40%から10~15%になった」

 伊豆・伊豆の国両市が事業の中心である田方森林組合の山本宗男組合長付(66)は「森の力は2015年度がこれまでで最も多く、60ヘクタールをやった。全事業量の30%ほど。昨年度は31・6ヘクタールと前年に比べ半減したが、決して縮少傾向ということではない」と話す。

 やりやすい山から地権者らに整備を勧めるため、奥山や急峻[きゅうしゅん]など難しい山が後回しになる。2人は「山奥で作業道が造れなかったり、伊豆は1人の所有面積が狭く地権者が多いため、交渉に手間が掛かる。山主が分からなかったり、分かっても都会に出ていたり、境界が分からなかったり…のケースもある」と口をそろえ、山本さんは「難しい山は補助額を増額してもらえれば、奥山の整備も進む。事業認可の各条件も緩和してほしい」と現場の声を届ける。

 笹本さんは「森の力再生事業の9割以上は人工林の再生整備で、竹林・広葉樹林は1割にも満たない(県の方針)。だが伊豆は竹林やシイ、カシ、ナラなどの広葉樹林(雑木林)が多く、人工林と逆転を望む。天竜などと伊豆は違う」。加えて「大きな問題になっている鹿やイノシシなど獣害の温床である広葉樹林を整備(間伐しても20、30年でひこばえが出て森は復活)すれば獣害を減らせる。若い木に更新すればドングリなども多く実る。獣を里山から奥山に戻せる」と訴える。

 森林づくり県民税は、木材価格の低迷が続き林業の衰退が著しいなか、税金を補助金という形で事業者に支払うことで、地域に新たな雇用を生み、林業者の育成にも役立っている。7年前に発足した異色の森林管理作業集団のチーム北見フォレストワーカーズ(松崎町、北見仁一代表)は、下田市の兄弟会社も含め15人で構成し、40代以下が8人含まれ、ほとんどが移住者だ。

 全事業が森の力で、当初15~20ヘクタールの実績が、今は40~50ヘクタールをこなすまでになり、北見代表(60)は「森の力があったからこそ、やってこられた」とし、他方、同社の森林コンサルタント・正司陽麻さん(33)は「森の力」のコンセプトに賛同しつつも矛盾を感じ始めている。

 「(伊豆では)家の近くの竹林、広葉樹林を整備してほしいという声が圧倒的に多いにも関わらず、県は税を払っている県民の声を吸い上げていない」と疑問をぶつけ、「一律に右にならいではなく、東部とか、農林事務所ごととか、地域の実情に合ったやり方を採用すれば実効性が上がる」と提案した。

 【森林づくり県民税(森林環境税)とは】

 税収を森林整備や林業振興、林業の担い手育成などに生かすことを目的にした森林環境税で、高知県が2003(平成15)年に全国で初導入した。その後、全国的に広まり、これまでに37府県が導入している。静岡県は06(平成18)年に全国9番目で導入、この年は同時に8県が始めた。

 名称(通称)は各県が知恵を絞り、水と緑のもりづくり税、県民緑税、森林湖沼環境税、元気な森づくり県民税、水源環境保全税などいろいろ。税額や税率は個人県民税が300円~1200円、500円程度が多い。法人県民税は5%~11%(なしも3府県ある)、5%が多い。税収は約2億円~約39億円。

 森林づくり県民税は2020(平成32)年までの実施が決まっており、以後は最終年に事業の進展や効果を踏まえて再検討するという。また政府は税制改正の一つで全国規模の森林環境税の創設を検討していて、既に実施済みの各府県の森林環境税とのすみ分けをどうするかなど国の動向が注目されている。

 【森の力再生事業とは】

 森林所有者による整備が困難で、公益性、緊急性が高い森林を対象に、森林が本来、持っている「森の力」を回復させて(1)山崩れ・土砂災害の防止(2)雨水を蓄え洪水や渇水の緩和(水源函養[かんよう])を図るのが狙い。

 日光が入らず暗くなったスギやヒノキの人工林は、下草が育たず大雨が降れば雨が一気に流れ下って崖崩れなどを引き起こす原因となる。このため間伐を行って日光が林床まで届くようにし、下草や広葉樹(針広混交林)の育成を促す。間伐は通常20~30%程度だが、森の力ではおおむね40%を実施する。

 また台風などにより倒れたスギやヒノキの人工林は風倒木を片付けることで、大雨による流出など二次被害の未然防止を図り、併せて草木の生育を図る。さらに近年、大きな問題になっている住宅地に近い里山などの放任竹林の伐採、広葉樹林などの間伐―が森の力再生事業の3本柱だ。

 ■木材流通センターに期待 チップ工場や発電も視野

 間伐がメーンの森の力再生事業に加え、「ここ5、6年は素材(スギ、ヒノキ材)生産が動き出している」(伊豆森林組合の笹本藤也さん)という。ただ今の林業は補助金なしでは成り立たない厳しい環境下に置かれ、そんな中、伊豆で新たな動きも出てきている。

 「森の力」で間伐した木材は売れれば山主の収入のほか、10~20%が事業者の収益になる。だが植え放しで手入れがされていない森林が多く、獣害もあって良質な材は少ない。このため間伐してもそのまま山に放置し、森の肥やしになるケースが多い。「山主には新たな支出はなく、災害が防げ、山がきれいになるのでやらせてほしいと、お願いしている」と笹本さん。

 一方、収益を上げるためには良質な木材を育て素材生産することが求められる。その支援制度として伐期を迎えた材を生産する国の森林環境保全直接支援事業と、本県では富士市に県が誘致した建材メーカーのノダに間伐材を搬入する合板・製材生産性強化対策(TPP)事業がある。スギ、ヒノキの伐採、搬出には大型機械も必要で資本力のある事業者が参入する。

 社員35人を抱える伊豆では最大規模の林業会社で、富士以南を作業エリアにする愛美林(本社・南伊豆町)は素材生産がメーン。仲尾力山林部長(53)は「私どものような業態では『森の力』はコスト的に合わず、積極的に参入できない」とし、「将来的には植林から素材生産することも取り組んでいき、広葉樹に目が向けられれば山の整備はもっと進む」と力説する。

 田方、伊豆の両森林組合も2事業の占める割合は高く、伊豆では林業を骨太の産業にするため伊豆市は同市大平[おおだいら]に内陸フロンティアによる林野庁の林業成長産業化地域創出モデル事業の指定を目指していたが、28日の発表で小山町と共にあいにく漏れた。浜松市など全国16地区が選ばれた。

 県によれば県森連や伊豆地区の森林組合、関連団体などが共同出資し木材流通センター(土場)を中心に最新製材機械、乾燥施設などを導入、木材の需給調整も大きな狙いだった。チップ工場や集成材工場などへの期待も高かったが、構想を見直すことになるという。田方森林組合の山本宗男さんは「こういうものができれば、伊豆地区の林業振興の核になる」と熱い視線を注いでいた。

 また伊豆南部では森林組合と行政が共同で木材をチップ化する工場や小規模なバイオマス発電の施設整備を構想し、電力の地産地消の一端を担う考え。まだ不透明な部分も多いが、笹本さんは「間伐材や山に捨て置くような木でペレット(木質固形燃料)の材料、バイオマス発電の燃料、パルプ製品、セルロースナノファイバー(繊維、複合材)の材料になり、雇用の場にもつながる」と夢を広げる。

 ■伊豆市は最多の実績 1人400円、年10億円が財源

 森林づくり県民税は年間、個人県民税で約8億円、法人県民税で約2億円の計10億円の税収があり、スタートした2006年度~15年度の10年間累計は95億円に上る。

 県森林計画課によれば、これを財源に10年間で整備した森林面積は1万2374ヘクタールで、おおむね浜名湖2個分にあたるという。93・5%は人工林の間伐などの再生整備で、人工林の災害対応が3・3%、伊豆地区で要望の多い竹林や広葉樹林の再生整備は3・2%にとどまる。

 伊豆地区の市町別の整備面積(詳細は別表)は伊豆市が最多で、以下南伊豆町、下田市、伊東市、松崎町、河津町、西伊豆町、伊豆の国市などと続く。県内最多は静岡市、2位浜松市で伊豆市は島田市、掛川市に次いで5番目。件数では伊豆市は県内3番目に多かった。

 森林づくり県民税の使い道は、事務費(約1%)以外の全額が補助金。人工林は1ヘクタール当たり70~80万円、災害対応は同210万円(平均)、竹林・広葉樹林は同350万円(同)が助成され、伊豆市では約8億円、南伊豆町、下田市では2億円余が森林の再生整備に使われた。

 【写説】森林づくり県民税を財源にした森の力再生事業で整備された森。作業道を入れ、40%ほど間伐を実施した=西伊豆町内

 【写説】スギが密生する未整備の森。下草もほとんど生えない。間伐することで日光が入り、下草や針広混交林の育成を目指す=西伊豆町内

 【図表】森の力再生事業の市町別実績

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