坦庵の漢詩を読む 41=悲哀で結ぶ晩年の傑作(二松学舎大名誉教授・顧問、全日本漢詩連盟会長・石川忠久)

2017年04月17日

花下歩月

喜苦随時与事違

春光好処故人稀

独憐落後壟頭月

影引庭花映客衣

花下 月に歩む

喜苦時に随[したが]い 事と違[たが]う

春光好き処 故人稀なり

独り憐れむ 落後壟[ろう]頭の月

影は庭花を引いて 客衣に映ず

     ◇……………………◇

(語釈)

故人=古なじみの友。

壟頭月=畑の向こうに沈む月。

客衣=旅ごろも。ここでは自分の着ている着物。

(訳)

月光の下、花の小径[こみち]を

辛[つら]さ楽しさ季節と違う

春のよい時友は見えない

畝の向こうに沈む月影

花を透かして衣を照らす

     ◇……………………◇

 七言絶句。押韻=違・稀・衣(平声微韻)

「花下歩月」とは、桜とか桃とかの花が咲いている下を、月の光を浴びながら歩く、という風流な趣きの詩題である。

 だが、この詩は、楽しむべきよい景色の中に、独り悲しみに沈むことを詠う。その悲しみが何であるかは、具体的にはわからない。

 (起句)「事と違う」とは、喜ぶべき時に喜ぶことができない、ということ。「喜苦」というが、この場合「苦」の方は、添えられただけで、「喜」の方に意味が片寄っている。

 (承句)今、春の光がうらうらと良い季節であり、喜ぶべき時であるのに、共に楽しむ親しい友がいない。

 (転句)それ故、後へ沈みゆく(落後)畑の向こうの月が、

 (結句)その光(影)を庭の花に射し、さらに我が衣を照らすのを、我ひとり悲しく思う(憐)のである。

 「花下歩月」という詩題は、詩の会などでよく出される月並み[・・・]な題であるが、この詩は前半の2句の詠い方から見て、当時の作者坦庵の置かれた立場(その苦しみ)が投影しているように思われる。

 その影は、後半の2句の描写にも及び、流れるような悲哀の情を持って結ぶ。晩年の傑作と称すべき作であろう。

(二松学舎大名誉教授・顧問、全日本漢詩連盟会長)

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