伊豆の低山を歩く ジオてくの楽しみ30=網代・朝日山、東浦路(熱海市・伊東市)

2017年04月05日

1.「この石の裏側に(毛利家とみられる)刻印がある」と指す発見者の森野光晴さん=熱海市下多賀・和田木
1.「この石の裏側に(毛利家とみられる)刻印がある」と指す発見者の森野光晴さん=熱海市下多賀・和田木
2.大きな石の裏側から見つかった毛利家とみられる刻印
2.大きな石の裏側から見つかった毛利家とみられる刻印
3.「◇界一五八」と刻まれた刻印。「十界」はよく判読できる
3.「◇界一五八」と刻まれた刻印。「十界」はよく判読できる
4.長谷観音の境内一角にある三十三観音石仏群。江戸時代の造立とみられる
4.長谷観音の境内一角にある三十三観音石仏群。江戸時代の造立とみられる
5.ウミガメを供養し、豊漁を祈願した亀塚。「亀乃津加」と彫ってある=立岩トンネルの網代・海側
5.ウミガメを供養し、豊漁を祈願した亀塚。「亀乃津加」と彫ってある=立岩トンネルの網代・海側
6.悪霊が村に入らないよう江戸時代に建てられた法界万霊塔。築城石を利用?=伊東市宇佐美境の東浦路沿い
6.悪霊が村に入らないよう江戸時代に建てられた法界万霊塔。築城石を利用?=伊東市宇佐美境の東浦路沿い
明治40年ごろの小山集落の海岸。左上が丸山で、海は埋め立てられた(郷土多賀村史から)
明治40年ごろの小山集落の海岸。左上が丸山で、海は埋め立てられた(郷土多賀村史から)
登山データ表
登山データ表
登山ルート図
登山ルート図

 ■山と人々=「○」の刻印発見 コース沿い、亀塚や法界万霊塔も

 熱海市網代には江戸城の築城石を切り出した朝日山、弘法滝、大西ケ洞奥[おおにしがほらおく]などの石丁場跡が残る。下多賀の国史跡、中張窪[ちゅうばりくぼ]・瘤木[ごぶぎ]石丁場に比べ規模は小さいものの、見て歩くのも楽しい。未調査の石丁場もあり、古道・東浦路の脇で「○」の刻印が発見された。

 6年前、網代観光協会やNPO法人・宇佐美江戸城石丁場保存会(森野光晴理事長)がやぶ状態だった下多賀・和田木の東浦路を通れるよう整備し、その後、森野さんが石の裏にあった「○」の刻印を見つけた。熱海市や伊東市の石丁場調査報告書にも見られず、熱海市教育委員会の学芸員・栗木崇さん(44)は「毛利家の家紋に似ている」という。最近、その近くの古道沿いで「◇界一五八」の刻印も発見され、栗木さんは「刻み方が新しく、明治時代以降の土地境界ではないか」とみる。

 立岩[たていわ]トンネルの海側は下に観音窟[かんのんくつ]があるため観音崎と呼ばれ、トンネル貫通前の旧道が通るが、途中が崩落し抜けられない。以前は灯明台や灯台があり、今はここから初島に送電用の海底ケーブルが敷設される。

 網代側から少し進むと亀塚がある。伊東市教育委員会・市史編さん担当の金子浩之さん(57)は「ウミガメは大漁をもたらす神聖な生き物で、漁師たちは大切にした。生きたまま捕獲すると酒を飲ませ、再び海に戻した。網に掛かって死んだり、台風の後に海岸に打ち上げられたりすると懇ろに葬った。伊東にも塚や社がある」、善修院住職の妻・鳳美恵子さん(68)は「漁師の人から、亀塚に酒を掛け供養や海上安全、大漁祈願した話を聞いたことがある」と語った。

 長谷[はせ]観音(長谷寺[ちょうこくじ])には三十三観音石仏群(市指定文化財)があり、下田市の上原仏教美術館主任学芸員の田島整さん(47)は「1791年の造立とみられ、千手[せんじゅ]観音、十一面観音、如意輪[にょいりん]観音、不空羂索[ふくうけんじゃく]観音などから成る。伊豆の人々が西国霊場本尊と結縁[けちえん]するためのうつし霊場で、巡拝に行けない民衆の祈りを受け止めてきた」と解説する。

 うら寂しい東浦路沿いの網代と宇佐美境の山中に江戸時代、悪霊や悪いことが村に入らないよう大きな石塔が建てられた。金子さんは「法界万霊塔で道標の役目も果たし、村境は信州だと道祖神だが、伊豆は道祖神を子どもの守護神として村の中心に置く」という。森野さん(63)は「この近くの平坦地には、網代の人たちが茶畑と呼ぶ開拓集落、西側の宇佐美の沢には八紘村という開拓地があった」と往時の網代峠(宇佐美峠)の様子を振り返った。

 ■登山記=見どころ多い長谷観音 丸山一帯は歴史の宝庫

 熱海市下多賀の小山[おやま]臨海公園をスタートし、南熱海マリンホール前のマリンタワーから隣接の小高い「丸山」に登った。昭和30年代まで市役所南熱海支所付近は国道135号まで海で、JR伊東線のトンネル掘削土を埋め立て今の公園を造った。

 丸山は、隣接地で医院を営む相磯家の所有。元厚生労働省職員で医師の資格を持つ相磯富士雄さん(89)は「地元ではあらんば山、魚や船を見るあらみ山とも言われ、山全体が石丁場。わが家の祖先は石を切り出し、屋号の『まるや』の印(○)が帆に書かれた船で江戸などに運んだ」

 また「戦時中は洞窟が4本掘られ、2本にまくら木、レールが敷かれ本土決戦に備えて人間魚雷の『回天』を配備する計画だったが、直前に終戦を迎えた」。1本に現在、東京大地震研究所が地震計を設置している。

 下ると国道135号付近の相磯クリニック裏に出る。「ここの細い道が東浦路で、国道や伊東線を越え山側に延びるのが熱海側ルート。和田木側のルートは不明」と相磯さん。一帯は歴史の宝庫だ。

 この後、国道沿いを網代に向かい、御神船・両宮丸を引く勇壮な夏祭りがある阿治古神社を見学し、絶景が広がる国道の網代パノラマバイパスを通り、長谷観音へ。バイパスからは熱海市街や伊豆山の岩戸山などが見渡せ、眼下の海岸線には立岩が屹立[きつりつ]。幻の観音滝、奇岩の根づっかなどもある(海岸線の奇岩などは2016年6月1日付の特集で紹介)。

 国道からわずかに入ると、竹林奥の静かなたたずまいが長谷寺境内。鳳美恵子さんは「長谷寺は善修院の隠居寺で、奈良時代の高僧・行基(668~749年)が彫ったとされる観音像を海岸近くの観音窟に祭り、老夫婦が守ってきたが、善修院の初代住職が隠居する際(1521年)に長谷寺を創建し本尊として移したと伝わる」。観音像は像高約1メートルで、33年に一度開帳する。

 境内一帯の三十三観音石仏群や灯台跡(網代町青年団が昭和初期に整備)、江戸時代に活躍した熱海俳壇の祖・東海呑吐[どんと]の供養碑を見学し、朝日山に向かった。すぐ石丁場跡で、矢穴がはっきりとした大石が展示物のように鎮座、周辺には多くの築城石が残る。その上方にあずまや、さらに上ると朝日山山頂だ。

 旧網代中側に下ったら急階段を上り、別荘地内を抜けると古道の東浦路と合流する。別荘地を抜け、その昔、東浦路にあった大島茶屋跡を通りナコウ山の分岐で引き返す。帰りは東浦路を伊東線・網代駅近くの和田木に下り、車に戻った。

 ■ジオ解説=70~40万年前の噴火名残 網代海岸の荒々しさつくる

 古道・東浦路は網代と宇佐美を隔てる山々を越える。この区間は現在、JR伊東線が延長3キロ近い宇佐美トンネルで通過する。1986年にこのトンネルが開通するまでは、旧宇佐美トンネル(1938年完成)を鉄道が通っていた。トンネルの難工事と言えば丹那トンネルが有名だが、旧宇佐美トンネルも難工事で知られている。

 丹那トンネルと同様に温泉余土と呼ばれる、岩石が温泉水などによって変質してできた粘土が、掘削やトンネルの維持を困難にした。温泉余土は水を含んだり空気に触れたりすることで膨張する性質があるからだ。こうした土質だけでなく、温泉の熱そのものも工事を困難なものにしたという。

 現在の国道は、かつての火山活動の様子が刻まれた崖の上を通過する。立岩周辺の海岸や朝日山は、70~40万年前に噴火していた火山の名残で、波の浸食を受ける海岸部の崖では、その火山の内部構造を目の当たりにすることができるのだ。

 歩道などが整備されておらず危険なため、海岸には下りず、立岩トンネルの近くからその一部を眺めるにとどめたい。網代側から旧道に少しだけ足を踏み入れ、150メートルほど進むと、眼下の波打ち際に屏風[びょうぶ]岩と呼ばれる板状の岩が突き出している様子が見える。地下深くから上昇してきたマグマの通り道にできた「岩脈」だ。板状の岩脈が海に突き出した姿はなるほど屏風のようにも見える。

 屏風岩を見下ろしている地点で旧道の山側の崖を見ると、屏風岩の岩脈が旧道まで延び、周囲に堆積している赤黒いスコリアの地層を押し分けている様子も分かる。こうした荒々しい火山噴出物は、美しい海岸の風景をつくるとともに、山越えの古道の険しさやトンネル工事の厳しさも物語っている。

(伊豆半島ジオパーク推進協議会専任研究員・鈴木雄介)

 【写説】「この石の裏側に(毛利家とみられる)刻印がある」と指す発見者の森野光晴さん=熱海市下多賀・和田木

 【写説】大きな石の裏側から見つかった毛利家とみられる刻印

 【写説】「◇界一五八」と刻まれた刻印。「十界」はよく判読できる

 【写説】長谷観音の境内一角にある三十三観音石仏群。江戸時代の造立とみられる

 【写説】ウミガメを供養し、豊漁を祈願した亀塚。「亀乃津加」と彫ってある=立岩トンネルの網代・海側

 【写説】悪霊が村に入らないよう江戸時代に建てられた法界万霊塔。築城石を利用?=伊東市宇佐美境の東浦路沿い

 【写説】明治40年ごろの小山集落の海岸。左上が丸山で、海は埋め立てられた(郷土多賀村史から)

 【図表】登山データ表

 【図表】登山ルート図

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