ひとり男繁昌記 その240=錆びついた平和・上(近世文学・故 村田稲造)

2017年04月03日

 昨年は暗いニュースが多かった。中東難民たちの目も当てられぬ惨状をはじめとして、内外ともに明るい話題に出合うことがなかった。その中で一つ光ったのがオバマ大統領の広島訪問だ。

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 2016年5月27日、広島へ向かう大統領専用機の中でオバマ大統領は演説原稿を推敲(すいこう)していた。これを同乗した駐日大使のキャロライン・ケネディさんが目の辺りに見ていた記事がA新聞に載っていた。

 「彼は最後の最後まで原稿をチェックしていました」

 加害国の大統領が被爆の中心地をはじめて訪問し、被爆者や日本国民、世界にメッセージを発する、彼自身、この訪問を「歴史的瞬間」と意識していた。自分で作った折り鶴4羽のうち2羽は子どもたちに手渡され、また被爆者の老人と抱き合わんばかりの交流をした。

 オバマ氏の一挙一動は、神経の隅々まで血の通った心配りの連続だった。踏み込みすぎるとアメリカ国民の感情を逆なですることになる。彼らは原爆投下を大戦終結の守護神のように思っている、そんなアメリカ人と日本人の心情とのバランスは綱渡りのようにデリケートだ。オバマ氏が核廃絶志向の人であり、日本人への心やりがいかにあっても、率直にこれを表現することのできない苦衷(くちゅう)がテレビの画面から伝わってきた。被爆老人との接触の度合いの出ず入らずの表情は苦しそうだった。従来の大統領とは全く異なった方向を示すものになった。今までアメリカにこんな大統領はいなかったし、今後も期待することは難しいかもしれない。

 今回の大統領選挙は、これと別のアメリカの素顔をむき出しにした。世界が直面している難問にはソッポを向き、お互いの中傷合戦、最低のネタのバクロに終始した。それにつけても現実のアメリカ人の間にいかにフラストレーションが充満していたか、トランプ氏はまさにガス抜きの対象だった。アメリカン・ファースト一本槍が大衆の心をつかんだ。

 「これがアメリカの正体なんだ。右から左、ピンからキリ何でもあり、世界一の多民族国の面白さ、乱雑さ、いつ何が飛び出すか分からない、一定の尺度に収まらない未知の可能性を持った国、これがつまりアメリカン・デモクラシーなんだ」

 社会保障制度、銃規制を議会で決めようとすると、これに猛反対の共和党と付随する団体。被保険者のために税金を払うのはイヤだ、医療にしても貧しい人間と富裕層との差別のあるのは当然、もし高度医療を受けたければ、金持ちになれ、貧乏人も金持ちも結局は個人の能力、意欲次第だ、金持ちが貧乏人本位のための制度を作って、税金を取られるのは心外だ。また銃規制に反対するライフル協会の幹部は銃こそアメリカ人の生きる基本だと主張する。自分の身は自分が守る、これがアメリカ建国以来の支柱だと譲らない。徹底した個人主義的思想だ。いま世界では上下の交流、助け合い、社会的均衡が叫ばれているが、保守派のアメリカ人は反対だ。彼らは社会主義が大嫌いだ。社会的一律性は人間の自由を封じ、同一カラーに塗り込めるドリームのない思想だと嫌悪する。

 こんなアメリカに日本が依存し、万一の際の同盟を結んではいるが、トコトンのところ当てになるのか。すでにトランプ氏の主張からも、日本に対する援助は必要ない、日本の防衛は当事者国にまかせろと公言しているのを見れば分かるように、これがトランプ一人の言葉でなく、多数のアメリカ人の声でもあるのだ。日本人のためにアメリカ人が血を流す、そんな義理はないと考えるのも理解できる。

(近世文学)

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