坦庵の漢詩を読む 38=気持ちよい村歩き(二松学舎大名誉教授・顧問、全日本漢詩連盟会長・石川忠久)

2017年03月27日

赴江梨途中作

桃花爛漫柳扶疎

鶏犬相聞意自舒

田向壟頭開〓畝

村依山脚結茅廬

横行跋扈沙辺蟹

溌剌浮沈浪裡魚

藜杖閑来海湾路

逢人却訝武陵漁

江梨に赴く途中其の一

桃花は爛漫[らんまん] 柳は扶疎[ふそ]

鶏犬相[あ]い聞こえ 意自ら舒[の]ぶ

田は壟[ろう]頭に向かって〓畝[けんぽ]を開き

村は山脚に依りて 茅廬を結ぶ

横行跋扈[ばっこ] 沙辺の蟹[かに]

溌剌[はつらつ]浮沈 浪裡の魚

藜杖[れいじょう]もて閑に来たる海湾の路

人に逢えば却って訝[いぶか]る 武陵の漁かと

     ◇……………………◇

(語釈)

扶疎=のびのび広がるさま。

壟頭=おか。

〓畝=みぞ、うね。

溌剌=はねるさま。

藜杖=あかざの杖。隠者の杖。

武陵漁=解説参照。

(訳)

 江梨山への途中

桃は明るく柳はしなやか

鶏は鳴き犬は吠え合う

うね[・・]を揃[そろ]えて田んぼが開け

山すそに沿い藁家[わらや]が並ぶ

蟹はのそのそ砂浜を這い

魚[うお]はぴちぴち浪間に跳ねる

海辺の道をのんびり行けば

武陵の漁師と人は訝る

     ◇……………………◇

 七言律詩。押韻(疎・舒・廬・魚・漁=平声魚韻)

 気持ちのよい村歩き[・・・]の詩。韮山から江梨まで、西南へ向かって、農村を通り山道を抜け、海辺をのんびりと歩いて行く。

 [首聯[しゅれん](1・2句)]の第1句は、句中対。桃はランマン(lanman)、柳はフソ(fusu)と音をそろえて(畳韻語という)弾むような調子。第2句の「鶏犬相聞」は成語。平和なのんびりした村里の様子を表現する。

 [頷聯[がんれん](3・4句)]まず、山路沿いの風景。広がる田圃[たんぼ]と、山すそに点在する農家の家屋。

 [頚聯[けいれん](5・6句)]海辺の情景、わが物顔に砂浜を歩くカニと、海中で浮き沈みする魚。

 [尾聯[びれん](7・8句)]「武陵桃源」の故事を用いて、ユートピアのような伊豆の自然を、昔の武陵源の話になぞらえる。

(解説)この詩に引き合いに出される武陵源の話は、中国の晋[しん]の陶淵明の「桃花源記」という文に出てくる。―武陵の漁師が、魚を取って上流に進むうち、桃ばかり咲く林に出合う。林の奥に洞穴[ほらあな]があり、それを抜けると、不思議な(穏やかで豊かな)村里があった、と。

(二松学舎大名誉教授・顧問、全日本漢詩連盟会長)

 ※〓は田ヘンに犬

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