坦庵の漢詩を読む 37=苦悩する代官の姿(二松学舎大名誉教授・顧問、全日本漢詩連盟会長・石川忠久)

2017年03月19日

 村居雑詠

半世盪搖入海浪

閑来懐旧独長嗟

支離能類遼東豕

管見旋同井底蛙

稜稜霜倒無根草

猟猟風仇満朶花

老子識愚多閉口

縦雖微事手三叉

半世盪搖[とうよう] 海浪に入る

閑来旧を懐いて 独り長嗟す

支離 能[よ]く類す 遼東の豕[いのこ]

管見 旋[たちま]ち同じ 井底の蛙[かわず]

稜々の霜は倒す 無根の草

猟々の風は仇[あだ]す 満朶の花

老子愚を識[し]り口を閉ざすこと多し

縦[たと]ひ微事と雖[いえど]も 手は三叉

     ◇……………………◇

(語釈)

盪搖=揺れ動くさま。

長嗟=長く歎く。

支離=ばらばら。まとまらない。

遼東豕=ひとりよがり。(解説    参照)

管見=狭い考え。

井底蛙=世間知らず。(解説参    照)

稜々=鋭くとがったさま。ここ   は霜の形容。

猟々=激しく吹くさま。

老子=おいぼれ。自分のこと。

三叉=腕組み。考えるしぐさ。

(訳)

 村での暮らし

わが半生は海辺の暮らし

振り返りつつ溜息[ためいき]をつく

ひとりよがりは遼東の豚

世間知らずは井戸の蛙か

霜に倒れる根無しの草よ

風に吹き飛ぶ枝に咲く花

このおいぼれは愚かで無口

些細[ささい]な事も 腕をこまねく

     ◇……………………◇

 七言律詩。押韻(第1句踏み落とし。嗟・蛙[あ]・花・叉=平声佳韻・麻韻通韻)

 [首聯[しゅれん]。1・2句]自分は海辺で育った田舎者だ、と自嘲[じちょう]する。[頷聯[がんれん]。3・4句。対句]自分が世間知らずで、見識も浅いことを故事になぞらえて言う。[頚聯[けいれん]。5・6句。対句]根無し草、風に散る花になぞらえて、自分の今の境遇を詠う。[尾聯[びれん]。7・8句]口も閉ざし、手を拱[こま]ねいて、ひたすら事無かれ的に身を処しているさまを詠う。

(解説)遼東豕=豕は豚。遼東(現中国東北部)で、頭の白い豚が生まれ、河東(中国河北省)へ自慢しに持って行ったら、そこでは豚は皆白かった、という話。ありふれたことを知らずに、得意になるたとえ。井底蛙=井戸の中の蛙は、大きな海を知らない、見識の狭いたとえ。

 ペリー来航(1853年)などで揺れる幕府の下で、伊豆の代官として苦悩する様子が垣間見られる作である。

(二松学舎大名誉教授・顧問、全日本漢詩連盟会長)

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