湧くWork・熱海温泉−温泉誌作成実行委員会編(8)谷崎潤一郎『台所太平記』と熱海 自身の老年期題材に

2015年05月25日

執筆中の谷崎潤一郎(中央公論新社提供)
執筆中の谷崎潤一郎(中央公論新社提供)

 今年は谷崎潤一郎没後50年の年にあたります。そのため谷崎に関する本が次々出版され、5月からは新たな『谷崎潤一郎全集』(中央公論新社)の刊行も始まり、各所で企画展が開催されるなど、注目されています。

 谷崎は、戦時中から熱海によく滞在していました。熱海市の西山に別荘を購入し、しばしば原稿の執筆もここで行っていました。あの名作『細雪』を熱海で執筆したこともあります。

 戦争中、一家で西山に疎開していたり、戦後も執筆や避寒のため熱海に滞在したりしたこともある谷崎ですが、1950(昭和25)年春に熱海市仲田に別荘を購入したのを機に、熱海で生活することが多くなります。健康上の理由から夏と冬を熱海で過ごしていたのです。

 谷崎は、53年5月に仲田の別荘を売却した後、上天神町の山王ホテル内にあった旧友の別荘を借り、翌年春、伊豆山鳴沢に再び別荘を購入しました。56年の暮れには京都の本宅を売却していますので、老年期の谷崎の生活は熱海を拠点としていたと言って良いでしょう。

 こうした谷崎の熱海での生活をモデルに書かれたのが『台所太平記』です。この小説は、千倉磊吉という老小説家の家で雇用していた女性の使用人たちが引き起こすさまざまな出来事をユーモアいっぱいに描いています。

 中でも、銀という使用人の恋の話は、昭和30年代の熱海の様子と当時の恋愛事情を思い起こさせ、読者を懐かしく甘酸っぱい気持ちにさせることでしょう。銀の恋の行方は、あえてここでは語りませんが…。

 『台所太平記』は、もともと週刊誌『サンデー毎日』に連載されていた小説ですので、非常に読みやすく書かれています。来る6月に東京・明治座で舞台上演されますが、これまでにも何度か演劇化、映画化、テレビドラマ化されたことがありますし、現在でも文庫で手軽に読むことができます。かつての熱海の姿に思いをはせながら、この物語を味わっていただければと思います。

 (瀬崎圭二 広島大文学部准教授)

 【写説】執筆中の谷崎潤一郎(中央公論新社提供)

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