1面コラム 潮の響=慈愛に満ちた眼差し

2019年06月04日

 下田市蓮台寺温泉ゆかりの銅版画家・浜口陽三さん(1909~2000年)の展覧会「憧れ−伊豆と浜口陽三」(~7月15日)を見に東京・日本橋の「ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション」へ行った

 ▼浜口さんは養生のため戦後2年ほど同温泉に滞在し“ヤギの絵描きさん”と親しまれた。後に東京に出て本格的に銅版画制作に励み、渡仏。カラーメゾチントという独自技法を編み出した

 ▼生誕110年の同展は、黎明[れいめい]期ともいえる伊豆の2年間を起点に画業を振り返る。銅版画を中心に、近年発見された資料や使った道具などが並んでいた

 ▼蓮台寺時代に描いたとされる「ゆりの花」(鉛筆)の繊細さに見入った。さくらんぼやテントウムシをモチーフにしたカラーメゾチントは、闇の中で妖しさを放つかのようだ。「パリの屋根」(1956年)に引かれた。濃淡のある闇に浮かぶ数々の屋根を、どこから望んだのだろう

 ▼浜口さんの作品展は、80年には伊豆で3回開かれている。美術評論家の故林紀一郎さんは「対象への慈愛に満ちた眼差[まなざ]しは現実のかたちよりはるかに優しく、つつましく、しかも厳格に銅版に写し取る」と評した。作家の生きざまに触れ、作品の余情にひたった。

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